パーキンソン病専門施設やホスピス型住宅でガッポリだった看護師の末路

「日勤のみで年収600万円以上」「夜勤なしでも高収入」。
数年前から、ホスピス型住宅やパーキンソン病専門の有料老人ホームに併設された訪問看護ステーションの求人に、こうした好条件が並ぶようになりました。病棟で夜勤をこなしても届かなかった給料が、日中の訪問だけで手に入る。転職した看護師のなかには、「なんでもっと早く来なかったんだろう」と感じた人も少なくなかったはずです。
ところが2025年以降、こうした施設の訪問看護で、過剰な訪問や実態のない請求が次々と明るみに出ました。国は一斉調査に乗り出し、2026年6月の診療報酬改定では報酬の仕組みそのものが大きく見直されています。
高い給料の原資はどこから来ていたのか。そして、そこで働いていた看護師はこの先どうなるのか。今日は制度の仕組みと現場の実態をふまえて、正直に書いていきます。
ホスピス型住宅とパーキンソン病専門施設で何が起きていたのか
末期がんや難病の人が暮らす「住まい」に訪問看護が併設される仕組み
ホスピス型住宅とは、末期がんや神経難病などで医療的なケアが欠かせない人を主な対象にした有料老人ホームのことです。制度上は「施設」ではなく「住まい」として扱われるため、入居者の部屋は自宅とみなされます。そこへ、同じ建物や敷地内に併設された訪問看護ステーションの看護師が「訪問」してケアを行う形になっています。
パーキンソン病に特化した住宅も、基本的には同じ構造です。難病の人が安心して暮らせる場所が増えること自体は、本来は社会にとって必要なことです。問題は、その仕組みが「訪問すればするほど報酬が増える」構造と結びついていたことでした。
上場企業で相次いだ不適切な請求の発覚
パーキンソン病専門の有料老人ホームを全国に40か所以上展開していた上場企業では、2025年2月に公表された特別調査委員会の報告で、ほぼすべての施設で不適切な診療報酬の請求があったと指摘されました。その額は28億円を超えています。短時間しか滞在していない訪問や、同行者がいないのに複数名で訪問したことにして加算を請求していたケースが明らかになり、役員が辞任する事態となりました。
ホスピス型住宅の最大手でも、2025年8月に公表された特別調査委員会の報告書で、実態のない診療報酬の請求が少なくとも約6,300万円分あったとされています。報告では、数分程度の短時間訪問が約9,900件、実態が認められない複数名訪問の加算請求が約1,300件あったと指摘されました。会社側は組織的な不正はなかったと主張していますが、調査委員会は法令順守意識の低さや営利優先の姿勢を問題視しています。
こうした事態を受けて、厚生労働省は2026年1月から、ホスピス型住宅などへの訪問看護を対象にした初の全国一斉調査に乗り出しました。2026年9月には、ホスピス大手2社に対して報酬の返還を指導したと報じられています。
なぜ過剰な請求が成り立ってしまったのか
難病や末期がんは介護保険ではなく医療保険になります
訪問看護は、通常は介護保険で提供されます。ところが、末期がんや、パーキンソン病、ALSなどの厚生労働大臣が定める疾病(いわゆる別表7)に該当する人は、医療保険での訪問看護に切り替わります。
医療保険の訪問看護には、介護保険のような月ごとの利用上限(区分支給限度基準額)がありません。医師の指示があれば、週7日、1日3回までの訪問が可能になります。さらに、複数名での訪問や、早朝、夜間、深夜の訪問には加算がつきます。
本人の負担が増えにくいから、過剰さに歯止めがかかりません
医療保険には高額療養費制度があり、ひと月の自己負担額には上限があります。パーキンソン病などの指定難病で医療費助成を受けている場合は、自己負担の上限がさらに低く抑えられています。
つまり、訪問の回数がどれだけ増えても、入居者本人や家族が支払う金額はほとんど変わりません。利用者の側から「こんなに来なくていい」という声が上がりにくく、請求額だけが膨らんでいく構造になっていたのです。報道では、入居者1人あたり月80万円から90万円もの報酬が生み出されるケースもあったとされています。
現場で指摘された主な手口
報道や調査報告で指摘された手口を整理すると、次のようなものがありました。
一つひとつは記録上の「少しの盛り」に見えるかもしれません。しかし、それが数十の施設、数百人の入居者、毎日3回という単位で積み重なった結果が、数十億円という数字です。
高い給料の原資はどこから来ていたのか
日勤のみで病棟以上の年収という求人の裏側
病棟の看護師の平均年収は、夜勤手当を含めておよそ500万円前後です。看護師の年齢別の年収を見ても、日勤のみで600万円、700万円を超える水準はかなり高いほうだとわかります。
その給料を支えていたのは、過剰な訪問と加算によって膨らんだ医療保険の報酬でした。医療保険の財源は、私たちが毎月支払っている保険料と税金です。厳しい言い方になりますが、高い給料の一部は、制度の穴を使って社会全体から集めたお金だった可能性があるということです。
流れ作業のような訪問が「普通」になっていく
こうした施設で働いていた看護師から、よく聞くのはこんな声です。
「同じフロアの部屋を順番に回って、バイタルを測って、記録を入力して、次の部屋へ。1回の訪問は数分のこともある。でも記録上は30分になっている。最初は違和感があったけれど、先輩もみんなそうしているし、上からそう指示されているから、そういうものだと思うようになった」
人は環境に慣れる生き物です。最初に抱いた違和感も、毎日繰り返すうちに薄れていきます。それが「感覚の麻痺」の正体です。
経営者の目にはどんな看護師が映っていたのか
ここで少し、視点を変えて考えてみます。あえて経営者の立場に立ってみると、見えてくるものがあります。
「お金を払えば黙って従ってくれる人材」という見方
職業倫理の面から見れば、「給料が多くもらえるから」といって不適切な請求に加担するのは、看護師としてどうかしていると言わざるを得ません。
ただ、もし不正を前提に事業を組み立てていた経営者がいたとしたら、その目にはどんな看護師が「理想の人材」に映っていたでしょうか。おそらく、内部告発をしない、指示に反発しない、高い給料を払えば疑問を持たずに動いてくれる、医療保険の制度にあまり関心がない、という人材だったはずです。
もちろん、そこで働いていた看護師全員がそうだったわけではありません。違和感を口にした人、上司に疑問をぶつけた人、耐えきれずに辞めた人もいたはずです。報道でも、不正を指摘した職員が異動させられたり、パワハラを受けたりしたという証言が伝えられています。だからこそ、残って働き続けた側が「扱いやすい人材」として重宝されていた面は否定できないと思います。
看護師だから現場だけを見ていればいい、という考え方の危うさ
「請求は事務の仕事」「制度のことは上が考えること」「私は言われたとおりにケアをしているだけ」。看護師のなかには、こうした考え方の人も少なくありません。
しかし、訪問看護の記録を書き、訪問時間を入力しているのは看護師自身です。その記録が報酬請求の根拠になる以上、看護師も制度の当事者です。現場のケアだけでなく、制度に沿って適切にサービスを提供しているかというコンプライアンスにも目を配れる看護師のほうが、私は信頼できると感じますし、個人的にも好きです。
2026年の改定で何が変わったのか
同じ建物への訪問は「定額払い」が中心に
2026年6月の診療報酬改定では、有料老人ホームなど同じ建物に住む多くの入居者に頻繁に訪問する訪問看護ステーションの報酬が、大きく見直されました。
報道によると、同じ建物への訪問は、出来高払いから月ごとの定額払いが中心になり、1人あたりの上限はおよそ月45万円程度に抑えられます。出来高払いを選ぶこともできますが、多人数への頻回な訪問の報酬は引き下げられ、20分未満の訪問は算定できなくなりました。
「訪問すればするほど儲かる」時代は終わりつつあります
これまでのように、1日3回、短時間で回数を稼ぐ運営は、報酬の面でも成り立ちにくくなっています。事業の採算が合わなくなれば、拠点の統廃合や人員の見直しが進むのは自然な流れです。実際に、業界では人員整理や希望退職の話も聞こえてくるようになりました。
高い給料を前提に働いてきた看護師にとって、これは決して他人事ではありません。
ガッポリだった看護師の末路は本当に悲惨なのか
タイトルには「末路」と書きましたが、正直に言えば、そこで働いていた看護師の多くは、思っているほど悲惨な状況にはならないだろうと私は考えています。ただし、乗り越えなければならない壁はあります。
技術があれば、採用してくれる職場は多いです
看護師の有効求人倍率は2倍を超える水準が続いており、慢性的な人手不足です。病棟や訪問看護、クリニックなど、ほかの職場でも通用する看護技術を持っていれば、不正が問題になった施設で働いていたことを理由に採用を見送られるケースは、それほど多くないはずです。
面接で前職のことを聞かれても、「違和感はあったが、組織の方針に従って業務を行っていた。今後は制度に沿った適切なケアを大切にしたい」と誠実に説明すれば、それ以上厳しく詰められることは少ないと思います。
ただし、注意しておきたい点もあります。一般的に、指示に従っていただけの現場の看護師個人が大きな責任を問われる例は多くないと考えられます。しかし、自分の判断で事実と異なる記録を作成していた場合は話が別です。看護師には品位を保つ義務があり、業務に関する不正が明らかになれば、免許に関わる行政処分の対象になる可能性もゼロではありません。「言われたからやった」が、どこまでも通用するとは限らないのです。
壁1 上がってしまった生活水準
本当の壁は、むしろお金の面にあります。月に数万円から十数万円多い給料を数年間もらい続けていれば、生活水準はどうしても上がります。家賃の高い部屋に引っ越した、車を買い替えた、ローンを組んだ、子どもの習い事を増やした。そうした支出は、収入が下がったからといってすぐには戻せません。
次の職場で年収が100万円、150万円下がったとき、その生活に耐えられるかどうか。これが、多くの人にとっていちばん現実的な悩みになるはずです。
壁2 麻痺してしまった仕事の感覚
もう一つの壁は、仕事の感覚です。細かなアセスメントや評価をせず、決まった手順で部屋を回る働き方に慣れていると、一般的な病棟や訪問看護に戻ったときに戸惑うことになります。
病棟では、急変への対応、入退院の調整、多職種との連携、記録の正確さが常に求められます。一般の訪問看護でも、1件1件の訪問で利用者さんの状態を丁寧に評価し、ケアの内容を組み立て、移動時間も含めて1日のスケジュールを管理しなければなりません。「忙しさの質」がまったく違うのです。
給料は下がったのに、仕事は前より大変になった。そう感じて、転職先でも長続きしないという悪循環に陥る人もいるかもしれません。
コンプライアンス意識は職場によってまったく違います
転職理由は人間関係だけではありません
看護師が職場を変える理由として、いちばんよく挙がるのは人間関係です。ただ、それと同じくらい大きな理由になり得るのが、法人の方針や上司からのプレッシャーです。
「回数を増やせ」「この記録で通しておいて」「余計なことは言わなくていい」。こうした指示が日常的に飛び交う職場では、どれだけ真面目に働いていても、いつの間にか自分が問題の当事者になってしまう危険があります。上司との関係に悩んでいる方は、師長に嫌われたら終わりなのかという話もあわせて読んでみてください。
転職先を選ぶときに確認したいこと
コンプライアンス意識は、求人票の条件だけでは見えてきません。次のような点に注目すると、職場の姿勢をある程度見極めることができます。
- 相場より明らかに高い給料の理由を、説明会や面接で具体的に説明してもらえるか
- 1日の訪問件数や1件あたりの訪問時間が、現実的な数字になっているか
- 記録の書き方や請求のルールについて、研修や確認の仕組みがあるか
- 職員が疑問や違和感を口にできる雰囲気や、相談窓口があるか
- 過去に行政からの指導や報道がないか、自分でも調べておく
面接の逆質問で何を聞けばよいかについては、看護師転職の面接で求められることと逆質問の考え方も参考にしてください。訪問看護の現場で働くうえでの他職種との関わり方については、訪問看護がうざいと言われないための話でも触れています。
給料の高さだけで職場を選ばないために
給料が高いことそのものは悪いことではありません。看護師の仕事に見合った報酬がもっと支払われるべきだと、私自身も思っています。ただ、「相場から大きく外れた好条件」には、必ず何かしらの理由があります。その理由が、制度の穴を突いた運営にあるのだとしたら、いずれそのツケは働く人にも回ってきます。
転職で何を優先すべきか迷ったときは、看護師転職で重視すべきポイントも確認してみてください。給料、働き方、人間関係に加えて、「この職場の方針を、自分は胸を張って説明できるか」という視点を持っておくと、後悔の少ない選択ができるはずです。
制度を守る看護師が、結局はいちばん強いです
ホスピス型住宅やパーキンソン病専門施設の問題は、一部の企業の不祥事であると同時に、看護師一人ひとりの働き方を問い直す出来事でもあります。
高い給料に惹かれて働いた看護師を、一方的に責めるつもりはありません。生活のために条件の良い職場を選ぶのは、ごく自然なことです。ただ、これから先も看護師として長く働いていくなら、現場のケアだけでなく、制度に沿って適切にサービスを提供することにも目を向けてほしいと思います。そういう看護師こそ、どの職場に移っても信頼され、制度が変わっても揺らがない強さを持てるからです。
もし今、勤め先の方針や上司の指示に違和感を抱えながら働いているなら、その感覚を大切にしてください。法人の姿勢やコンプライアンス意識は、職場によって本当にさまざまです。自分が納得して働ける職場は、きっとほかにもあります。
今すぐ転職しなくて大丈夫です。ただ、「次の場所がある」と知っておくだけで、今の職場の指示に流されずにいられる余裕が生まれます。看護roo!は登録無料で、20万件以上の求人から希望の条件で探すことができます。給料の水準が適正かどうかや、職場の方針、雰囲気についても担当者に相談できるので、まずは情報収集から始めてみてください。
